日本の文化と心

2007年10月12日

日本の文化と心

10月12日10時~17時、福岡市の天神ビルにて上記セミナーを開催いたしました。
このたびのセミナーでは“日本の文化と心”をテーマとして、6人の方々にそれぞれのご専門の分野から自由なご意見の発表と、その後の討議を行っていただきました。
午後の討議では、会場に集った一般の方々からのご質問も加わり、講師、発表者の方々と会場が一体となる熱のこもった討論が続きました。
最後に、鶴見俊輔氏、中西進氏による総括で、このセミナーをしめくくりました。

今回のセミナーは、次の方々にご講演、ご発表をいただきました。
講演者 鶴見俊輔氏 哲学者 日本文化の現在
講演者 中西 進氏 奈良県立万葉文化館館長 しなやかな日本知
議 長 清水孝純氏 九州大学名誉教授       
発表者 Tzvetana Kristeva氏 国際基督教大学教授 心のしるし-古代日本文学における「心」の意味を問うて
発表者 Christopher Szpilman氏 九州産業大学教授 「革新右翼」満川亀太郎と人種差別との戦い
発表者 劉 岸偉氏 東京工業大学教授 「日本の文化と心」を考えるヒント-新渡戸稲造から南原繁へ
発表者 稲賀繁美氏 国際日本文化研究センター教授 お稽古ごとの海外文化交流:武術の場合を中心に

このセミナーの内容は、次回刊行する会誌『FUKUOKA UNESCO』44号に特集記事として掲載いたします。

2008年1月16日(水) “The Defences of Peace”は“平和のとりで(砦)”か?

10月12日、当協会創立60年記念国際文化セミナーは「日本の文化と心」をテーマに鶴見俊輔氏、中西進氏の講演、稲賀繁美氏、クリストファー・スピルマン氏、ツベタナ・クリステワ氏、劉岸偉氏による発表と討論を行った。

このセミナーで発表された国際日本文化センター教授、稲賀繁美氏は「お稽古ごとの海外文化交流:武術の場合を中心に」という発表のなかで、次のような発言があった。

「…(前略)ひとつだけここで言いたいのは、競争原理にのっとってどちらが優れているか,どちらが勝つかという形の武道・武術であるならば、これは国際貢献として海外に広めるのにそんなに大きな意義はないと私は思います。
むしろ最初に言いました「矛を止める」というこの技術を世界に広めていく。そのために武術が使われるのであれば、そのほうがよほど大きな意味を持つだろう。世界中がたとえば市場原理で競争して勝った者がいいんだという、その価値観に武術も乗っかってしまったのでは、これは日本の心を伝えるという意味で、むしろ反対であろうと思います。
冒頭に、ユネスコ憲章の前文に「人の心の中に争いというのは起こるんだ。だから人の心の中に平和の砦(とりで)をつくらなければいけない」という言葉がありました。私は半分は賛成ですが、ちょっと反対のところもあります。「砦をつくる」という、そういう何かを守ろうとする姿勢そのものが、おかしいんだろうと思います。
ちょっと話が飛躍しますが、むしろ武術にしてもこれはお手合わせなんですね。人と人と接触して、そこで相手がどう動くかということにどう対応していくか。その人と人との間というものをいかに慈しんでいくかというのが「武」というものだと思います。そうすると、むしろ「砦」などというものを心につくらない、そういう心の在り方というものを築いていくのが武術ではないか。これは私の価値観ですが…」(後略)― セミナー記録は来年春の会誌の出版に向け準備中 ―

稲賀氏のこの話は閃光のように私の心の靄を払った。セミナー終了後、私は稲賀氏の考えに心底共感したこと、“平和の砦”という言葉がこれまでなんとなく腑に落ちないで、もやもやと心にあったことをお伝えした。
稲賀氏から“平和の砦”という表現が原文ではどうなっているか調べたらいかがですか!という示唆をいただいた。

「戦争は人の心の中で生まれるものであるから、人の心の中に平和のとりでを築かなければならない」

ユネスコ憲章の前文にある有名な一節である。
1945年(昭和20年)11月、ユネスコ憲章が採択された当時、イギリス首相だったクレメント・アトリーが演説の中で話した言葉で、それが憲章の前文に生かされたという。

英語による原文は次のような表現になっている。

「Since wars begin in the minds of men, it is in the minds of men 
that the defences of peace must be constructed;」

アトリーがどのような思いでDefencesという言葉を使ったか不明だが、“平和の砦”という比喩は理解するが、戦争を防ぐための“砦”という言葉が平和を構築しようという文脈のなかにあるのは、なにかそぐわない感じを私は受けていた。
Defenceというのは辞典をみれば、1.防御、防衛 2.(…に対する)防御物、[施設、手段] (~s)とりで、要塞、とある。
“the defences of peace”を“平和の砦”とする翻訳が間違いというわけではないが、少し違和感を覚えるのは前文が生まれた第二次世界大戦が終わった直後の時代と60数年を経過したいまの時代に生きるものの感覚の相違からくるものなのだろうか?と思う。

インドの神話に「悪魔は人の心にのみ住んでいる」という言葉を私は聞いた記憶がある。
あの未曾有の戦火を体験した国々、なかでも戦勝国の間にも自省の気持ちがこめられ、ユネスコ憲章は生まれた。
ユネスコ:国際連合教育科学文化機関は人類が再び戦争を繰り返さないため、世界各国は互いに良く知り合う必要があると活動を続けており、民間団体である私たちもまた、ささやかな国際文化交流活動に取り組んでいる。
「平和というものは政府の約束だけでは達成できない。人と人との協力があってこそ達成できる!」というのがユネスコ憲章の精神である。

(*枠内は旧サイト「福岡ユネスコ丸航海誌」に掲載していた文章です.)

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講演会・セミナー活動について

福岡ユネスコ協会は日本研究者の方々をお招きし、様々な催しを開催してきました。 その一つ一つが、内外の研究者の方々の最新の発表と活発な討議を通して世界の目からみた日本の文化、そしてこれからの日本の在り方を示唆するものと高い評価をいただいております。 福岡ユネスコ協会は今後もこうした日本研究の発表の場をつくり、日本の文化を世界に発信する架け橋でありたいと願っています。 これらの会議、セミナー、シンポジウムは一般の方々に公開しております。会議用語は原則として日本語です。 一部外国語を使用する場合にはその旨を事前にご案内し、通訳や日本語資料の参照などで補います。 皆さまのご参加をおまちしております。

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