「七つの文学作品で読む韓国社会の過去と現在」(きむ ふな氏講演会)を終えて
コロナ禍で会場内が密になることを避けるために、今回は天井が高く広い空間がある北九州市立文学館に会場を変更して講演会を実施しました。
講師は韓国文学と日本文学を日本語と韓国語に相互に翻訳している翻訳家のきむ ふなさん。
「七つの文学作品で読む韓国社会の過去と現在」というテーマで、日本の植民地時代の1910年代から現代までの約100年間を、
– 1.植民地時代
– 2.分断とイデオロギー対立の時代
– 3.民主化運動の時代
– 4.グローバル社会の時代
と大きく4つに分けて、それぞれの時代の文学と社会について講演していただきました。
1.植民地時代では、福岡で死去した詩人、尹東柱(ユン・ドンジュ)を中心に、李箱(イ・サン)や李光洙(イ・グァンス)についても紹介されました。
2.日本の植民地から解放された1945年以降の時代では、南北に分かれて統治され国は二つに分裂し、そのイデオロギーの違いから起きた済州島の「四・三事件」等の凄惨な出来事、そして1950年に始まった朝鮮戦争は53年に休戦となるがその休戦状態が現在までも継続していることを説明されました。その時代を描いた文学として、38度線の少し北にある村の話しであるイ・ヒョン著『1945、鉄原(チョロン)』と、朝鮮戦争の体験をリアルに描いた女流作家、朴婉緒(パク・ワンソ)の作品が紹介されました。
3.次に、60年以降は経済が急速に成長していきますが、開発独裁と言われる朴正熙大統領による強権的な政治が続き、数度の民主化運動と光州事件のような軍による弾圧を経験しながら、1987年に民主化が宣言されるまでの時代が説明されました。これらの歴史や社会の動きを知らないままでは、韓国文学の内容が理解しにくいことは確かなので、文学作品の他に映画、歌も紹介しながらわかりやすく説明されました。この時代では、『菜食主義者』で韓国文学を世界的に注目させた作家韓江(ハンガン)が紹介され、光州事件を扱った『少年が来る』にも言及されました。
4.1990年以降のグローバル社会の時代を描いた作家としては、『カステラ』の著者パク・ミンギュや『フィフティ・ピープル』のチョン・セラン、そして『82年生まれ、キム・ジヨン』で日本にもファンが多いチョ・ナムジュの作品に触れられました。
韓国の近現代史と社会状況を日本人に短時間で説明するのはたいへん難しいため、講演は予定を15分ほど超過しましたが、その熱気あふれる話の内容に参加者は最後まで聴き入っていました。
BLOG
- 「言葉は世界を変えられるか」(中島岳志氏、國分功一郎氏の講演と対話) を終えて
- 「江戸時代における長崎への画家遊学」(福岡ユネスコ・アジア文化講演会)を終えて
- 「森鷗外とドイツ文学」(美留町義雄氏講演会)を終えて
- 「往還する日・韓文化の現在」(伊東順子氏講演会)を終えて
- 「宗教・文化からみたロシアとウクライナ」(高橋沙奈美氏講演会)を終えて
- 「変わる中国、変わらない中国」(岸本美緒氏講演会)を終えて
- 「多文化共生とコミュニケーション・外国人との共生がコミュニティを豊かにする」を終えて
- 「ラテンアメリカ文学の魔力」(寺尾隆吉氏講演会)を終えて
- 「映画創作と自分革命」(石井岳龍氏講演会)を終えて
- 「大陸と日本人」(有馬学氏連続講演会)を終えて
- アジア文化講演会「生きる場所、集う場所」を終えて
- 「多文化共生を実現するために、私たちのできること」(オチャンテ・村井・ロサ・メルセデス氏講演会)を終えて
- 「『台湾』を読む」(垂水千恵氏講演会)を終えて
- 「コロナ危機以降のアジア経済」を終えて
- 「蘭学の九州」(大島明秀氏講演会)を終えて
- 「日本語を伝達ツールとして見直していく」(徳永あかね氏講演会)を終えて
- 「七つの文学作品で読む韓国社会の過去と現在」(きむ ふな氏講演会)を終えて
- 「琉球沖縄史を見る眼 〜なぜ『茶と琉球人』を書いたのか?」を終えて
- 「日本映画は中国でどのように愛されてきたのか」を終えて
- 「魯迅―松本清張―莫言 ミステリー / メタミステリーの系譜」を終えて
- 「対外関係から見た中国」を終えて
- 「「平成」とはどんな時代だったのか」を終えて
- 「北欧諸国はなぜ幸福なのか」を終えて
- 「人口減少社会 ― その可能性を考える」を終えて
- 「19世紀ロシア文学とその翻訳」を終えて
- 福岡ユネスコ・アジア文化講演会「アオザイ」を終えて
- アジアと出会う旅 ―ボクシング資料が切り拓く日本・フィリピン関係史を終えて
- 「日本(イルボン)発韓国映画の魅力を探る」を終えて
- 「アメリカをもっと深く知ってみる―なぜトランプが出てきたのか?」を終えて
- 「香港におけるアヴァンギャルド文化とその未来」を終えて
- 「文学の国フランスへのお誘い」を終えて
- 「英国のいま、そして日本は?」を終えて
- 「言葉でアジアを描く―現代文学とアジア」を終えて
- 「外国文学を読む。訳す。~柴田元幸氏による講演と朗読の夕べ~」を終えて
- 「メディアは、いま機能しているのか?」を終えて
- 「インドから見たアジアの未来」を終えて
- 「国境(ボーダー)が持つ可能性―日本と隣国の最前線を見る」を終えて
- 『ヘヴンズ ストーリー』のその先へ を終えて
- 日韓メモリー・ウォーズ ―日本人は何を知らないか― を終えて