「大陸と日本人」(有馬学氏連続講演会)を終えて
九州で活躍されている優れた研究者の方に、ご専門の研究内容をわかり易い形で講演していただき、地元九州の研究者と市民の接点を作ることを目的として始めた研究講演会で、今回は初めて全5回の連続講演会となりました。
テーマは「大陸と日本人」で、講師は九州大学名誉教授で福岡市博物館総館長の有馬学さんでした。
第1回 〈大陸〉とは何か
5月27日から月1回のペースで開催された講演会の第1回目の冒頭で、「大陸と日本人」というテーマを、「これはボワッとしたテーマなんです。それでそもそも大陸って何だ? という話で、ここで言う「大陸」というのを厳密に定義できる人はきっといないだろうというふうに思います」という話から始められました。
そして、「大陸とは何か」という大きなテーマのもとに、
1.1.国際政治とエモーショナルなもの
1.2.満州の起源
1.3.満州問題の成立
– 1.3.2 満洲問題・満蒙問題
の項目立てで話をされ、日本の利権というのが満洲全域に広がっていく中で、そういうところを中心にして「大陸」という言い方が次第に広まっていった経緯が語られました。
第2回 浅原健三と満洲人脈
第2回(6月24日)では、「大陸とは何か」のテーマの続きで
1.4.福岡という場と大陸
– 1.4.2 玄洋社と異なる系統
について話をされ、このテーマが終わりました。
続いて、「浅原健三と満洲人脈」という新しいテーマのもとに
2.1. 浅原健三
– 2.1.2 浅原健三の運動経歴
– 2.1.3 衆議院選挙
– 2.1.4 浅原の転向
2.2. 石原莞爾と満洲建国
– 2.2.2 満州事変
について話をされました。
第3回 福岡の社会運動家と満洲
第3回(7月29日)では、前回の「浅原健三と満洲人脈」のテーマの続きで、2.2 石原莞爾と満洲建国の
の部分から話はスタートしました。
2.3. 協和会と東亜聯盟
– 2.3.2 東亜聯盟
で本テーマが終了しました。
続いて、新たな「福岡の社会運動家と満洲」のテーマのもとに
3.1. 大陸に渡った福岡の社会運動家 について、
・愛甲勝矢
・楠元芳武
・吉塚謙吉
の4人を紹介されました。
第4回 満鉄調査部とは何か
第4回(8月12日)では、前回のテーマ「福岡の社会運動家と満洲」の続きで
3.2.東方会系の農民運動家と東亜聯盟運動 として、
・野口伝兵衛
・淡谷悠蔵
に焦点を当てた話から始まりました。
続いて、新しい「満鉄調査部とは何か」のテーマのもとに
4.1. 社会運動家と「満洲」をめぐるいくつかの回路
– 4.1.2 検挙された日本共産党員の転向
– 4.1.3 農民運動家と日中戦争期の東亜聯盟運動
– 4.1.4 国内改革と大陸の連動性
4.2. 満鉄調査部とは何か
– 4.2.2 満鉄調査部と「左翼」
4.3. 「調査の時代」と左翼
– 4.3.2 満鉄調査部による分析
– 4.3.3 満鉄調査部事件
について話をされました。
第5回 満洲/満洲国は何だったのか
第5回(9月9日)はこの連続講演会の最終回で、前回の「満鉄調査部とは何か」のテーマの 4.3.「調査の時代」と左翼 の1.日本の戦時体制と国策研究 について補足説明をされてから、
4.4 満鉄調査部の虚像?
でこのテーマを終えました。
続いて、最後のテーマ「満洲/満洲国は何だったのか」のもとに
5.1. 満洲/満洲国の得体の知れない吸引力は何に由来するのか?
– 5.1.2 メディア国家
5.2. 崩壊と引揚
– 5.2.2 ソ連参戦と満洲国の最後
– 5.2.3 1945年8月で終わっていない
について話をされました。
「おわりに」として、戦後70年以上経って満洲に対してリアルな認識を形成する素材がそろった現代から見ての問題点や、日本の近代化の成熟過程が戦時期と重なったことにより日本の近代化に対する評価が正確にできなかったことなど、「大陸と日本人」というテーマを通して浮かび上がった近代日本についての有馬先生の深い歴史認識が示されました。
福岡はアジア大陸に近く、戦前に中国や朝鮮に渡った人も多いため、自分に身近な歴史を知りたいと興味をもって参加される方が多く、講師が示される画像(現存する満洲時代の建物や人物写真等)や資料、映像や音楽により当時を想像しながら熱心に聞いておられ、毎回コロナ対応の60席の定員に近い出席者を得て盛況のうちに終了しました。
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