映画『ホセ・リサール』上映とアンベス・R・オカンポ氏ビデオ講演を終えて

2025年04月11日

video講演中のアンベス・R・オカンポ氏(福岡ユネスコ協会)

2025年2月1日(土)福岡市で開催された「ホセ・リサール、歴史家からみた真実の顔」は、映画上映、ビデオ講演、トークセッションの3部構成で行われました。

講師のアンベス・R・オカンポ氏が諸事情により来日できなくなりましたが、本講演のために準備していた画像を使った講演ビデオのデータを送っていただいたので、予定通り講演会を実施することができました。

1.映画『ホセ・リサール』上映

映画『ホセ・リサール』より(福岡市総合図書館提供)
*映画『ホセ・リサール』より(福岡市総合図書館提供)

第1部はマリルー・ディアス=アバヤ監督作品『ホセ・リサール』の上映で、この映画は1998年にフィリピンの独立100周年を記念して制作されたものです。ホセ・リサールの生涯にリサールが書いた小説『ノリ・メ・タンヘレ(我に触れるな)』と続編『エル・フィリブステリスモ(反逆)』の物語をうまく取り込んで、リサールの考えや思いを映像化した作品です。監督のディアス=アバヤ氏も2001年に福岡アジア文化賞の芸術・文化賞を受賞しています。
 

2.オカンポ氏のビデオ講演

アンベス・R・オカンポ氏のvideo講演(福岡ユネスコ協会)

リサール研究の動機

第2部のビデオ講演では、オカンポ氏が自身のリサール研究の動機から話を始められました。少年時代のオカンポ氏を父親がルネタ(別名リサール公園)に連れて行き、リサールの銅像を見せて「暑いフィリピンでこの銅像は何故オーバーを着ているのだろうね」と質問をしたことからホセ・リサールに大変興味を持つようになったそうです。

その後、大学時代から本格的に彼の研究を始め、1990年には『Rizal Without the Overcoat(外套を脱いだリサール)』を出版しました。この著作は、大理石や石に化石化されてしまった一人の人物に命を吹き込み、新しい世代の人にとって生き生きとした、関連性のある存在として蘇らせることを目指したものでした。オカンポ氏はその後も40年以上にわたり大学等でリサールについての講義を続けているとのことです。

リサールの存在感と生涯

フィリピン国内には銅像や保存された家屋、硬貨などいたるところでリサールを見ることができ、また彼の命日が国民の休日となっているなど、フィリピン国民が日常的に身近に感じている英雄の生涯についてオカンポ氏は詳しく語られました。
 

アンベス・R・オカンポ氏のvideo講演(福岡ユネスコ協会)

オカンポ氏は、リサールを本質的に「旅人」と捉えています。彼は様々な文化に出会い、そこから学び、そしてフィリピン人であることの意味を示すために帰国した人物だと説明しました。「旅人」としてのリサールはヨーロッパを中心に様々な地域で勉学し、日本語を含めて20数カ国語を学んだといいます。また、自分が受けた高度な教育をフィリピンの子どもたちも受けられるようにしたいという思いから、学校建設も計画していました。

リサールは実際に過激な活動は何も行わなかったにもかかわらず、彼の人生、著作、思想がフィリピン革命を鼓舞したという理由で死刑を宣告されました。オカンポ氏は最後に、タガログ語でコミュニティあるいは国家を意味する言葉を起源に持つ「バヤニ」(=勇敢な人)について触れ、これは祖国のために死ぬ人かもしれないが、同時に祖国のために生きる人でもあると述べました。そして、今日の講演がグローバルな世界の中でアジア人を考える機会になれば良いという言葉で話を結ばれました。

 

3.トークセッション

第3部のトークは、オカンポ氏と鈴木勉氏による直接の対談ができなくなったため、(一財)福岡ユネスコ協会の山口吉則事務局長が鈴木氏に質問を投げかける形式で実施されました。
『ホセ・リサール、歴史家からみた真実の顔』対談(主催・福岡ユネスコ協会)

トークの内容は主に3つのテーマに分かれており、(1)オカンポ氏の講演を補完する意味で、ホセ・リサールは現在のフィリピン国民にどのように評価されていると感じられるかについて、(2)上映された『ホセ・リサール』の本国での評価を含めて、鈴木氏が研究しているフィリピンのインディペンデント映画に関して、(3)日本とフィリピンの文化交流の最前線である国際交流基金マニラ文化センターで勤務しているなかで、現在の日本とフィリピンの交流状況をどう考えるかについてです。

『ホセ・リサール、歴史家からみた真実の顔』鈴木勉氏(主催・福岡ユネスコ協会)

鈴木氏が、どの部分の質問にも具体例を出しながら分かり易く応じていただき、現在の日本とフィリピンの関係は良好であることが観客にもよく伝わりました。

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