「『台湾』を読む」(垂水千恵氏講演会)を終えて
北九州市で行う文化講演会は、翻訳文学についてシリーズで実施しています。
今年度は台湾文学について、台湾文学者で横浜国立大学教授の垂水千恵さんがお話をされました。
「『台湾』を読む」——台湾新文学からLGBTQ文学まで」というタイトルの講演は、大きく分けると次の二部構成でした。
1.「台湾新文学」について
2.「LGBTQ文学」について
台湾新文学について
今年の芥川賞受賞作「彼岸花が咲く島」の著者である台湾生まれの李琴峰(り・ことみ)さん、『台湾生まれ日本語育ち』を書いた温又柔(おん・ゆうじゅう)さんら日本語で作品を書く台湾人作家の紹介を導入部として、1920年代に台湾で起こった文学運動、「台湾新文学運動」の作家について話をされました。
この台湾新文学については、陳芳明(ちん・ほうめい)氏による『台湾新文学史』が日本語に翻訳されています。
台湾新文学の定義は、『台湾文学史』の著者葉石涛(よう・せきとう)氏によると、中国の近代化運動である五四運動のもと、台湾で起こった抗日民族文学ということになります。台湾新文学における作家として、日本語作家の呂赫若(ろ・かくじゃく)、「台湾新文学の父」と呼ばれる頼和(らいわ、懶雲、甫三の筆名あり)とその作品「豊作」(甫三の名で発表)、台湾人プロレタリア作家楊逵(ようき)とその作品「新聞配達夫」について紹介されました。合わせて、当時の台湾における複雑な言語事情について説明されました。
日清戦争の結果日本に割譲された台湾では、人々は福建語系の閩南語(台湾語)や客家語を日常的に使っており、北京官話の中国語ではありませんでした。その中に統治した日本が日本語を普及させようと台湾の公学校で日本語学習を制度化したため、言語事情はより複雑化しました。中国の五四運動に影響を受けた言文一致運動(白話文運動)が台湾でも起きましたが、使用言語を台湾語にするか白話文にするかの郷土文学論争にも発展しました。
このような日本の植民地下の台湾で、またいくつもの言語が交差する中で書かれた台湾新文学の作品が、現代の日本において日本語で書く台湾出身の作家たちによって新しく発見され、受け継がれていることにより、新しい日本語を作り出す創作へ向かっている台湾文学と日本文学の大きな連環についても言及されました。
台湾LGBTQ文学について
後半は台湾LGBTQ文学についての話となりました。
現代の台湾では、同性婚を認める法案が2019年5月に立法院で可決され、アジアで初めて同性婚が認められました。またコロナ感染対策にIT 技術を活用して世界的に有名になった、トランスジェンダーのオードリー・タン氏がIT担当大臣を務めるなど制度的に自由度が高い社会となっています。しかし、これも1987年に戒厳令が解除され、以降民主化が進展していった結果でもあります。
先ず、日本語で読める台湾LGBTQ文学の作品として、邱妙津(キュウ・ミョウシン)の『ある鰐の手記』、紀大偉(き・だいい)の『膜』、白先勇(はく・せんゆう)の『孽子(げっし)』、そしてクィア(酷児と表記)に関する評論集などを紹介されました。
特に台湾同性愛(同志と表記)文学の中でレズビアン(拉子と表記)文学の正典と言われる『ある鰐の手記』の作家邱妙津について、『他人の顔』や『箱男』を書いた安部公房など日本文学からも影響を受けている点など少し詳しく説明されました。
最後に、今環境問題等で日本でも注目されている作家・呉明益(ご・めいえき)についても言及され、近年翻訳が増えてきた台湾文学についての全般的な紹介で講演を締めくくられました。
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