「「平成」とはどんな時代だったのか」を終えて
終って間もない「平成」時代を改めて見つめ直してみようということで開催したセミナー 「平成」とはどんな時代だったのか では、コーディネーターの思想史家・片山杜秀氏、詩人で社会学者の水無田気流氏、批評家でメディア研究者の酒井信氏に、それぞれ違った角度から平成を語っていただきました。
片山杜秀氏(基調講演)
基調講演で片山氏は、先ず平成元年(1989年)だけでも、リクルート事件を発端に短期間に首相が交代する国内政治の混乱が始まり、アフガニスタン撤退が象徴したソ連邦の衰弱とその結果としての東西冷戦の終結、これらの内外の出来事が以降の90年代、0年代を支配していく大事件であったことから説き起こされました。
平成時代は、関東大震災以降昭和時代には起こらなかった都市部を直撃する大型地震、阪神淡路大震災の発生や、広範な地域に被害を生み出した東日本大震災など大規模災害が続発して、地球史的レベルでも異常気象や異変が起こった時代であったこと。また、その数多くの災害に際して、被災地を訪問された平成天皇の行動は、戦後人間宣言をされた昭和天皇が、1946年~54年にわたる長い期間に人間天皇の姿を国民に示されるために日本各地を巡幸されたことに匹敵するもので、昭和天皇のパーフォーマンスを継承するものであること。その行為ができなくなるために劇的な退位という幕引きをされたことなど、天皇が即位して崩御するまでが一つの元号の期間であったことから、平成という時代を天皇を中心に語られました。
水無田気流氏
水無田気流氏は、インターネットの急速な普及により接続過剰な生活が展開して、経済や文化のグローバル化が進む一方、文化の非ローカル化が進み、個人のアイデンティティを支えるものが喪失していく平成時代を、CMやファッションの具体的な変化を多くの映像やイラストで示しながら話されました。それらの環境の変化と並行して起こった家族規模の縮小など家族の変容について、また世界的に変化しているのに日本ではあまり是正されない男女の社会的・文化的役割(ジェンダー)の差異についてなど社会の様々な問題について軽快に語られました。
日本の場合は昭和時代の1970年代にでき上ったシステムが高度な安定性を持ってしまったために、形骸化したまま仕組みが残り続けており、平成を通り越して令和時代にも続いてきているという厳しい指摘で締めくくられました。
酒井信氏
最後の酒井信氏は、インターネットやスマートフォンの普及の影響で、新聞、雑誌、音楽(CD)の販売が減少し、情報メディア環境が大きく変わっていった点を具体的な数字を示しながら話をされました。IT化と経済のグローバル化により中産階級が減少して、安価に得られる情報の需要が高まった結果として、購読料と広告費に支えられた「第四の権力」としてのメディアの監視機能が弱まり、ジャーナリズムの娯楽化が顕著になった時代と平成の特徴を述べられました。
オウム真理教事件と東日本大震災という平成を象徴する二つの出来事を通じたメディア分析を通して、利便性の高い生活環境が日本に浸透して情報メディア環境が進歩した一方、「見たくないものは見ない」という価値観を強めてしまったという課題が残されたと結論づけられました。
おわりに
各講演後の全体討議でも幅広い意見のやり取りが行われましたが、戦後の高度成長期に形作られた規範やシステムが根強く存続して、昭和時代の延長として続いた平成という時代の姿が浮き彫りになったセミナーでした。
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