「対外関係から見た中国」を終えて
今年のアジア文化講演会「対外関係から見た中国」には、6人の研究者の方に講師として出席いただきました。
外から見た中国へのアプローチ
最初にコーディネーターの毛里和子先生(第21回福岡アジア文化賞学術研究賞受賞者)が、「「外から見た中国」にどうアプローチするか?」と題して、総括的な問題提起をされました。
アメリカから見た中国
その後に、「アメリカから見た中国」について佐橋亮さんが発表をされました。
米・中国交正常化以降アメリカは情報協力、軍事協力、留学生受け入れによる科学技術協力を継続して、将来中国が米国のライバルになることに対して楽観的な予想しかしてこなかった。しかし、中国が急速に大国化したため、中国に追い越されてしまうのではないかという危機感を持って中国に対峙している現状を、これまでの歴史を振り返りながら説明されました。
東南アジアから見た中国
田村慶子さんは、「東南アジアから見た中国」について、1950年代のアジアにおける共産主義勢力の支援者の立場から、中国の発展とともに経済関係が大きな部分を占めるようになった。アセアン諸国としては中国の台頭を受け入れて活用する一方で、米国や日本などの他の複数国との連携も強化して、一枚岩の対応はできないもののそれぞれの国の自立を模索している現状についての発表をされました。
欧州から見た中国
欧州については、林大輔さんが「対立と協調の狭間で」と題して発表されました。英仏独伊などの西欧主要国と中・東欧諸国とでは中国に対するとらえ方がやはり違っているということです。もともとアメリカ一極ではない多極世界を志向する欧州は中国との協力が深まることに利益を持つ半面、人権などの規範や貿易不均衡などの経済問題に関しては対立面もあり、近年は中国からの大規模な投資に対する依存の問題も出ており、欧州としてのまとまりのある対応が取れていない現状が述べられました。
一帯一路構想
これらの発表を受けて全体討議に入る前に、国際政治的な面だけではなく中国の経済的側面についても見ておく必要があるために、中国の広域経済政策「一帯一路」構想について伊藤亜聖さんから発表をしていただきました。新興国へのインフラ整備を中心にした支援により、西方に向かって中国との関係が深まる国々を増やしていく一方、ここでも中国への依存過多の問題が出てきているとのことでした。
全体討論とまとめ
その後、指定質問者の天児慧先生によるいくつかの質問を発端に、事実や統計に裏打ちされた意見による活発な全体討議が行われました。
最後に毛里コーディネーターが次の4点にまとめられました。
①中・東欧諸国との多国間フォーラム「16+1」は上海協力機構(SCO)の引き写しで、「一帯一路」構想の基礎になっている。SCOは不透明で情報を出さなかったが、中国がロシアに変わってイニシアチブを取った実績がある。今度はヨーロッパでも同じことをやろうとしている。中国は14億の人材とお金も持っているので、中国外交を研究するには、時々中国人と同じ目で世界を見てみないといけない。
②米中関係は新冷戦にはならないだろう。米中関係には一定のルールとネットワークとトランプ以前にできた幅広い人脈があり、そのネットワークは今も機能しているので、一部の指導者によってすぐには変わらない。日中関係のようには悪くはならないだろう。
③覇権交代(パラダイムシフトが変わっている) 1945年以降アメリカがイニシアチブを取って欧州が協力してできた秩序(世銀、国連、WTO、核拡散)が2000年代にみな崩れてきたが、それに変わる新しい秩序はできていない。中国は未熟だしアメリカは落ち目であるために新しいルールを作り切っていない。それまでのつなぎをミドルクラスの国が協力して待たなければならない。
④我々は冷戦とベトナム戦争による悲劇を見てきた。冷戦によりやらなくてもいい戦争が起こって非常に多くの人が亡くなった。歴史の過ちを繰り返さないために、若い学生たちに学んでほしい。歴史の教訓の学習が、未来を語るうえでは大事だ。
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講演内容をまとめた書籍を刊行しました。
→ 『中国はどこへ向かうのか 国際関係から読み解く』
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