「多文化共生を実現するために、私たちのできること」(オチャンテ・村井・ロサ・メルセデス氏講演会)を終えて
昨年度からスタートした「多文化共生とコミュニケーション」をシリーズ・テーマとするセミナーの第2回講演会が、2021年11月27日(土)に開催されました。講師は、桃山学院教育大学准教授のオチャンテ・村井・ロサ・メルセデスさんで、「多文化共生を実現するために、私たちのできること」というタイトルでお話しいただきました。
オチャンテ・村井さんの来歴
オチャンテ・村井さんはリマ出身の日系4世のペルー人ですが、両親が日本に働きに来たことにより日本語がまったくできない状態で来日しました。日本の中学3年生に転入して、定時制高校で日本語を学び、日本の大学、大学院へと進学されました。大学院修了後に伊賀市で5年間外国人児童生徒巡回相談員を務め、現在は大学で教員養成と外国から日本にやって来るニューカマーの子どもたちの教育研究を進めておられます。
日本語と教育制度の壁——ご自身の体験から
日本での自分の日本語ゼロからの学習体験を踏まえてのお話は非常に説得力があり、特に言語習得の重要性については多くの時間を割いて説明されました。
外国から日本に来て日本語を学び始めて、日常会話レベルであれば半年間くらいで可能にはなるが、日本語の文章が読み書きできるようになるにはやはり5~6年の時間が必要になるので、自立を促すための日本語指導を受けたそうです。
オチャンテ・村井さんと一歳上の兄(16歳で既に学齢超過だった)が中学校で学習できたのも、また定時制高校に入学できたのも当時の学校長の判断によるもので、違う校長であったならば現在の自分たちはなかったかもしれないという、人生上の大きな幸運に恵まれたという認識を示されました。
やはり年齢によっては学齢超過になってしまい、義務教育を受けられない人がいるという現実があり、その点から夜間中学の必要性についても訴えられました。自分の言語で考える習慣が継続できることの重要性と日本語も理解できるようになるバイリンガルが理想的という見解でした。
日本における多文化社会の現状
日本における多文化社会の現状は、中長期在留者数2,582,686人、特別永住者数304,430人の合計2,887,116人(2020年末現在)。全国的な構成比では中国778,112人(27.0%)、ベトナム448,053人(15.5%)、韓国426,908人(14.8%)で、以下フィリピン(9.7%)、ブラジル(7.2%)、ネパール(3.3%)の順位で、ほとんどの国が前年に比べ減少しているにもかかわらずベトナムのみが8.8%増となっているのが特徴的です。
オチャンテ・村井さんは来日した90年代から2021年までの多文化社会における変化を、
1.顔の見えない存在から見える存在になり、関心が高まった
2.外国人住民がいることが普通になって珍しくなくなった
3.学校現場も多様化して違いを豊かさとしてとらえる児童・生徒も出てきている
4.外国人労働者はなくてはならない存在である
とまとめられました。
しかしその反面、労働環境は
1.非正規雇用のまま正社員にせずに期間労働(概ね3か月~6カ月)の所が多い
2.人手不足を補うための使い捨て労働者の扱い(仕事が増えると残業、減ると解雇)
3.将来や緊急時のための貯金ができず、余裕がないあるいは生活困窮者となる
というように、30年前と変わらない状態ということです。
2019年の入管法改正でできた「特定技能1号」の人でも在留期間は5年で家族の帯同はできないので、家族と離れて5年間暮らすことになる。このような移民家族の苦しい現実をわが身に置き換えて考えてみて欲しい、との思いを述べられました。
日本社会の一員として
最後に、日本の労働力は外国人住民も担っており、外国につながりのある仲間も日本人と一緒に将来は日本の社会を担っていく一員であり、今の支援は将来の日本への投資という共通理解を持っていただきたい。外国から来た人への日本語習得支援は、その人の自立支援であり、学校や日本語教室は時には日本人と交流する唯一の場所となる場合もあるので、「やさしい日本語」を使って地域の仲間と交流していきましょう。多文化共生は日本の将来のためにあるということで講演を締めくくられました。
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