「アジアと国際秩序の現在、そして未来」(佐橋亮氏講演会)を終えて
2019年12月、当協会では「対外関係からみた中国」と題するアジア文化講演会のシンポジウムを開催し、6人のパネリストの一人として佐橋亮氏をお招きしました。その際、佐橋氏には「アメリカからみた中国」というタイトルで、トランプ政権になって厳しくなった米中関係の緊張についてご報告いただきました。
今回の講演会では、「アジアと国際秩序の現在、そして未来」というテーマで、世界的な選挙イヤーとなった2024年で最も注目される選挙、アメリカ大統領選挙に焦点を当てました。とりわけ、民主党のバイデン大統領(この講演会間近にカマラ・ハリス副大統領に候補者が変更された)と共和党のトランプ前大統領との世界戦略の違いについて、詳しくお話しいただきました。
国際秩序の現状分析
先ず、国際秩序の現状として、第二次世界大戦以降の約80年間の秩序形成に大きな力を果たしてきた軍事大国、経済大国としてのアメリカの影響力に陰りが見えてきた点に言及されました。それにより「米国 vs 中国」、「米国・欧州 vs ロシア」のような構図で大国間の相互不信が前面にあらわれ、世界が米国を中心とする一極の円形から、極が二つある楕円形に変化してきていると分析、その結果、将来は世界がブロック化するのではないかと懸念される程、グローバル化とは逆方向のベクトルが強まっている現状についての説明がありました。
現在の国際関係においては米中関係は最も大きな基本軸となっています。この状態は今後も継続することが確実視されていますが、次のアメリカ大統領が誰になるかによって、両国関係は大きく変化する可能性があります。そこで今回は、大統領選の結果によって予想される東アジア秩序の変容について、またその変容に伴って日本が取り得るオプションについて、詳しくお話しいただきました。
次期大統領選後の展望と米国の変容
今回の米国大統領選後の方向性については、次のような分析がありました。
まず現在のバイデン政権の対中国アプローチについては、中国を将来的なポテンシャルがある挑戦者と認めながらも、最終的には競り勝つことを目標としています。一方、中国との対話を追求して危機管理やグローバル協力を模索する姿勢は、ハリス氏の下では維持されると予想される。
しかし、トランプ氏が再選された場合は、全く違った様相を呈する。すなわち、MAGA(Make America Great Again)の国益重視の考え方が、グローバル経済の否定とアメリカ主権重視の思想を基盤とした、非常に短期的で、狭い目先の利益を重視する方向に変化する可能性が高いことを指摘されました。
以上のようにアメリカは、大統領選の結果によってかなり違った方向に進み出す可能性があります。こうなってしまった背景には、80年近く「覇権国」の役割を務めてきたアメリカが、今や「疲れ果てた巨人」になってしまい、その結果、共和党も民主党も世界に対する関与を躊躇するようになってきている、との説明がありました。
長年アメリカ研究に取り組んできた佐橋さんは、米国の今後の動向がもたらす影響の重要性を軸に、そこから派生するロシアや北朝鮮の問題、また中国との関係や台湾情勢などにも触れながら、現代の国際情勢の問題点を丁寧にひもといてくださり、参加者にとって、今後の国際関係を考える上で貴重な示唆に富む講演会となりました。
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