「魯迅―松本清張―莫言 ミステリー / メタミステリーの系譜」を終えて
中国文学者で翻訳家の藤井省三氏を講師に迎えて、ノーベル文学賞を受賞して世界的にも知られる現代文学者、莫言(モーイエン)の作品『酒国』(1993年)に影響を与えた作品の系譜を探るテーマで講演していただきました。莫言氏は張芸謀により映画化された『赤い高粱』の原作者であり、2006年に福岡アジア文化賞大賞を受賞したことにより福岡でもよく知られた文学者です。
氏の『酒国 特捜検事丁鈎児の冒険』という作品は、酒国の共産党員幹部が宴会で男児の肉を食べているというショッキングな事件を丁鈎児検事が捜査するという設定の犯罪ミステリーです(作品の第一層)。この作品に影響を与えた過去の作品として、中国文学の父と言われる作家、魯迅の「狂人日記」と「故郷」を挙げられ、魯迅の作品の時代的背景や『酒国』との類似点などを具体的に説明されました。
次に、地元北九州が生んだ偉大な作家、松本清張がデビュー当初は歴史小説や私小説を書いていたが、魯迅の「故郷」に反発して「父系の指」を執筆して社会派ミステリー作品を書くようになったという魯迅との関係が示されました。そして中国で1980年代に松本清張の推理小説はブームを呼び、『眼の壁』(1958)という犯罪小説が莫言の『酒国』に与えた影響について分析されました。
系譜として魯迅と松本清張の作品からの影響をもつとともに、『酒国』が犯罪ミステリーとしての第一層の他に、李一斗という人物が酒国の内実を描いた小説群が第二層としてあり、作家・莫言と李一斗の往復書簡や莫言の酒国訪問記からなる第三層まである多層的な小説である点。その入れ子物語構造は、同じくノーベル賞作家であるペルーのバルガス=リョサの影響も受けていること等、ひとつの小説『酒国』を世界文学的視野で読み解く豊かな文学談義となりました。
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