「変わる中国、変わらない中国」(岸本美緒氏講演会)を終えて
今年度のアジア文化講演会もコロナ感染の影響で海外から講師をお呼びするのが難しかったために、日本国内にいらっしゃる福岡アジア文化賞受賞者に講師を務めていただきました。
2022年度の講師は、2021年に福岡アジア文化賞学術研究賞を受賞された、中国史の研究者でお茶の水女子大学名誉教授の岸本美緒さんにお願いし、「変わる中国、変わらない中国 ——明・清時代から現代を見る」というテーマでお話しいただきました。
冒頭に現代中国において起きた文化大革命、経済成長を重視した改革開放の動き、そして天安門事件など驚くような出来事にショックを受けたが、歴史を研究しているとこれらの一見非常に理解が難しいと思われることに対してヒントを与えられるのではないかと考えることもあったと述べられ、明・清時代の研究者の立場から現代中国に関わることについてお話ししますとテーマのコンセプトを述べられました。
日本の戦後(冷戦期の1970年代まで)の中国史学においては、清朝までの中国と革命後に成立した中華人民共和国の間に断絶があり、これを旧と新に分けて新中国を理想化する断絶論と中国社会・国家の特質は不変で専制国家、反自由主義であるという連続論の二つの見方があったことから説明を始められました。
また、日本人の対中感情も1980年代は中国に親しみを感じる人の割合が70%前後の高い数値を示していたが、天安門事件以降から日本人の親近感が薄れてきて2010年代には20%前後まで下がってきていることが紹介されました。そして、中国を主に政治の面から見ていくと、中国型のデモクラシーというものがあることについて話を進められました。
明末の「民意」に対する考え方と現在の人々が当然と考えている民主主義とには違いがあるが、「開読の変」(1626年)を例として、明末の「民意」観が今の時代でもみられる点があること。また、漢人の明王朝に替わった満洲人の清朝では、食糧貯蔵などの経済・社会政策の実施においては、官だけではなく民間を巻き込んだキャンペーン型の事業実施方法がとられ、これが毛沢東の「大衆路線」においても同じような考え方で行われていたとみることができるということでした。このように明・清の時代と現在との共通性などについて当時の文献や絵巻図などを見せながらわかり易く説明されました。
まとめとして、中国の「伝統社会」は一枚岩ではない。そのために、今日の眼で一面のみを見ると、「進んで」見えたり「遅れて」見えたりする。また、現代中国の抱える問題は、歴史的に展開してきた問題が、新しい世界的な環境のなかで新たな形で現れたものとみることもでき、歴史研究のなかに現代中国の直面する問題の根が垣間見えることがある。そのため現代中国研究と歴史研究との対話の必要性を指摘されました。
講演後に、岸本美緒さんと益尾知佐子さん(九州大学大学院比較社会文化研究院教授)との対談を行い、益尾さんが現在の習近平体制の政策などを紹介しながら、経済が果たす役割を歴史的な見方から過去と現在で比較されるなど、岸本さんの講演の内容を深めるお話をされました。また今後の中国の政策の将来予想や現在の国民の反響などについても意見が交わされました。
対談の後半では、フロアの参加者から多くの質問が出され、分野に応じて二人の研究者が丁寧に応答されて対談を終えました。
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