「アジア映画の面白さとは何か」講演会・上映会を終えて

2024年12月06日

最初の講演の部で講師を務められた田井肇さんが、ご自身の映画館、アート系ミニシアター「シネマ5」を大分市で始められたのは、1989年1月7日という昭和最後の日だったそうです。以来、現在まで3つの時代を跨いで映画を上映し続けていることから話を始められました。

 

アジア映画との出会い

「アジア映画とはこのような映画なのか」と田井さんが最初に認識した映画は、1988年に「ベルリン国際映画祭」で見た『紅高粱』で、89年秋に日本題名『紅いコーリャン』として自分の映画館で上映することになったそうです。この映画は『古井戸』で主役と撮影監督を務めたチャン・イーモウが監督した最初の作品で、ベルリン映画祭で金熊賞を受賞しました。

「アジア映画の面白さとは何か」講演中の田井肇氏(福岡ユネスコ協会)

講師の田井肇氏

また、同じ頃に見た台湾のホウ・シャオシェン監督作品『アハの世界』(日本題名『童年往時 時の流れ』)を素晴らしい映画と思ったそうですが、この作品を最近見直したら、最初見た時にはこの映画や台湾について本当は何もわかっていなかったのだと改めて痛感したそうです。その後、1989年に同じホウ監督の『悲情城市』が台湾映画としてヴェネチア映画祭で金獅子賞を受賞した時に、監督自身に手紙を書いて、台北まで直接会いに行ったとのことです。

最初は中華圏の映画からアジア映画に触れた田井さんは、その後韓国、インド、パキスタンなど様々なアジア映画を自分の館で上映してこられました。それらの作品を面白く見る中で、それまでよく知らなかったアジアの国々の歴史を知るようになり、例えば戦前は日本が台湾を領土としていたこと等、アジア諸国の歴史における日本の影響について考えるようになったといいます。そして、ご自分がこれまでに面白いと思われたアジア映画を、最近作まで15本程リストアップされて、短い講演時間の中で、アジア映画の面白さの一端をご紹介してくださいました。

 

『あなたの微笑み』の製作背景

マレーシア出身のリム・カーワイ監督の『あなたの微笑み』上映後に、田井肇さんとリム監督の対談が、ライターの佐々木亮さんの進行で行われました。

「アジア映画の面白さとは何か」司会の佐々木亮氏(福岡ユネスコ協会)

司会の佐々木亮氏

「アジア映画の面白さとは何か」田井肇氏とリム・カーワイ監督の対談風景(福岡ユネスコ協会)

 
『あなたの微笑み』は、一人の監督が自分の作品の上映をお願いしながら、沖縄から北海道までのミニシアターを訪ねるロードムービーです。リム監督は、この映画の製作経緯や撮影方法について質問されると、
・それは2022年のコロナ禍の時期に、ミニシアター支援のクラウドファンディングが行われていた時期だったこと、
・脚本はなく即興で作った映画であること、
・現場で役者にシチュエーションの説明と撮影テストを行った後に実際の撮影を行ったこと
を紹介されました。

リム監督は、役者に細かい演出を与えずに映画を作り上げていくこの方法を、釜山国際映画祭の第1回アカデミーに参加した時に講師を務めていたホウ・シャオシェン監督から学んだそうです。

「アジア映画の面白さとは何か」リム・カーワイ監督(福岡ユネスコ協会)

リム・カーワイ監督

 

アジア映画の特徴と映画館の意義

田井さんは冒頭の講演で話せなかった台湾のエドワード・ヤン監督の『牯嶺街(クーリンチェ)少年殺人事件』を例に挙げながら、ご自身の考えを展開されました。それは、映画はすべてドキュメンタリーであり、場の空気を作り出す中で役者が自然に動き出すのを撮影したもの、という映画論で、現代日本の監督濱口竜介氏、三宅唱氏たちに連なっていることと、その映画のアジア的な特徴の一つとして、現実を低い視点から見ており、老子の言葉「上善如水」のように器にしたがって形を変え、低い位置に身を置く水こそが最高の善、という考え方が底流に流れていることを指摘されました。

「アジア映画の面白さとは何か」田井肇氏(福岡ユネスコ協会)

 
リム監督は最後に映画のタイトルについてふれました。『あなたの微笑み』の「あなた」とは、観客のことを念頭に置いたものだそうです。もともと映画は観客がいなければ成り立たず、映画館は、他の人と時間と感覚を共有することで、新たな付き合いが始まる素晴らしい場所だということを伝えたかった、という話をされたのが印象的でした。

「アジア映画の面白さとは何か」田井肇氏とリム・カーワイ監督の対談風景(福岡ユネスコ協会)

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