「蘭学の九州」(大島明秀氏講演会)を終えて
福岡県にはコロナ感染に関する緊急事態宣言が出されていましたが、講演会の会場が密にならないように参加者上限を会場定員の3分の1という厳しい条件にして、換気に留意しながらリアルな形で講演会を予定通りに開催しました。
講師である熊本県立大学文学部准教授の大島明秀さんは最初に、「蘭学」を蘭書(オランダ語で書かれた書物、オランダ語に訳された書物)や器物、オランダ人から直接入手した情報を通じて近世日本にもたらされた学術・技術と定義されました。また、蘭学の研究対象は主に①語学(オランダ語)、②医学、天文学、物理学、化学等の自然化学、③測量術、砲術、製鉄等の技術、④西洋史、世界地理、外国事情などの人文科学ということです。
オランダ船リーフデ号が1600年に豊後臼杵に漂着したことをきっかけに日蘭の交流が始まり、江戸幕府から1609年に貿易を許可されたオランダは平戸に商館を設置、1641年には長崎出島に移転してこの場所を窓口として貿易が進展します。
ただ、日本はそれまでの中国との行き来によってもたらされた中華思想を基本に世界をみるので、欧州の国は南の蛮(野蛮人)と位置づけられて交易が行われました。オランダ人とのやり取りは、阿蘭陀通詞が当初はポルトガル語を使っていましたが、18世紀になるとオランダ語で行うようになり、日本での蘭学をリードしていくのはこの阿蘭陀通詞たちだったのでした。
しかし、阿蘭陀通詞が蘭学の発展に実際は大きな役割を果たした歴史があるのに、福沢諭吉が明治時代になって出版した杉田玄白の『蘭学事始』や福沢の『福翁自伝』によってあたかも1774年に上梓された『解体新書』から蘭学研究が始まったようなイメージが、日本国内に定着していたのでした。
阿蘭陀通詞の中で志筑忠雄(1760~1806)の果たした役割は非常に大きく、それまでオランダ語をまるで漢文を読むようなやり方で読解していたのを、オランダ語の文法などを十分に理解したうえでオランダ語として読解できるようにして、オランダ語文献の内容理解度が格段に進歩したのでした。
その後も優れた阿蘭陀通詞が輩出されて、九州のいくつかの藩にも実用的な蘭学が浸透して、蘭方医の採用、洋式造船、反射炉の建設などが行われていきました。また、全国各地の医者や蘭学者が長崎に遊学して蘭学が日本全国に広まっていったのでした。このような日本における蘭学の歴史が、海外書籍等文献の詳細な説明などを通して具体的にわかるような説明が行われました。そして、講演後に多くの質問が寄せられ、活発な質疑となりました。
【講演録ができました】
講演内容をまとめた書籍を刊行しました。
→ 『蘭学の九州』
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