「映画創作と自分革命」(石井岳龍氏講演会)を終えて
福岡で生まれ、高校を卒業して日本大学芸術学部入学直後に学生による自主映画グループ「狂映社」を設立。そこで監督した8ミリ作品『高校大パニック』により映画デビューを果たした石井聰亙(現、岳龍)監督は、40年以上に渡って映画を作り続けてきました。2006年から神戸芸術工科大学教授として若い学生たちに映画について教えるようになり、改めて映画をその成り立ちから考えてみた思考の軌跡が『映画創作と自分革命―映画創作をめぐって』(2022)という本にまとめて出版されました。
今回の講演会は、その思索の内容を多くの人にわかり易く伝えようとする初めての試みとなりました。
映画表現の可能性
デジタル技術の著しい発達もあり、現代の映画はシナリオの言語表現と映像表現と音響表現の3つの掛け算からできているもので、人間の心とか感情とか意識とか精神とか感動とかいうものを体感的な臨場感で強く伝え得るメディアである。そして、表現が練り上げられた映画は、絵画や写真や音楽やダンスと同様に言葉に頼らないで強く体感できる表現力を持っており世界共通意識を生み出す、と石井監督は考えています。
今回の講演会では、全編福岡で撮影された映画『水の中の八月』(1995)の中から、話のテーマに即して3パートを上映しながら、自分革命の主要な方法となる内的対話の重要性について話されました。
内的対話と映画の歴史
映画を作る人と映画を見る人は直接には会話せずに、作る人が作品に込めたある重要なテーマとか伝えたい思いを見る人は作品を見て感じるという心と心の対話を行っており、監督はそれを内的対話と呼びます。
内的対話に関しては、絵画、写真からパラパラ漫画の残像アニメーションと幻灯機によるスクリーンへの映写が合わさってできた映画の歴史を紹介されるとともに、映画が発明されて以降に映画の持つ内的対話力をどのように表現したかということの例示として、ドイツ表現主義作品やエイゼンシュタインのモンタージュ理論等も映像を見せながら説明されました。
他者や外界のものとだけではないもう一つの内的対話は自分自身の心との対話であり、これについてはより深い本物の「対話」の例として理論物理学者、デヴィッド・ボームの対話(ダイアローグ)が紹介されました。それによると、対話とは意見の差異について正誤を決めるのではなく違いを繊細に感じ合い、冷静に客観的に自分や他者そして対話する力を意識することで、これにより分断に加担せず共生へ向かう困難さに対して「折れない心」を養っていきたいと強調されました。
なぜ映画を作るのか
講演の中で、「なぜ映画表現をずっと志してあきらめずに作り続けているのかといえば、映画表現として残さなければ、あるいは残らなければ、この世界には決して存在し得ないもの。それに対する愛情の具現化ではないかと自分では思っています」と話されたことが印象に残りました。
講演後に、今回の講演内容と響きあうような監督自身の作品『鏡心・完全版』(2005年、出演:市川実和子、町田康他)が上映されました。
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