「コロナ危機以降のアジア経済」を終えて
緊急事態宣言中の9月25日(土)に、アジア経済研究の専門家二人を講師にお招きして、「コロナ危機以降のアジア経済」をテーマに講演会を開催しました。
コロナウィルス感染下のアジア経済と今後の展望
講演1.は末廣昭氏(東京大学名誉教授)による「コロナウィルス感染下のアジア経済と今後の展望」について。
新型コロナウィルスの感染拡大と中国のワクチン外交
2020年2月から感染が始まった新型コロナウィルスは、中国からアジア、欧州へと感染が広がっていきましたが、2020年7月段階ではアジア25か国の感染率は10万人当たり47人、ヨーロッパ55か国が338人、アメリカが1154人という状況。それが1年後の21年8月では、アジア25か国で1193人、ヨーロッパが6954人、アメリカが11861人というように、1年で世界的に感染は拡大しました。当初はアジアの感染症対策は比較的うまくいっていたのですが、その後感染率は高くなっていき、南アジアでは今年になってデルタ株が席巻した状態となりました。20年後半から欧米ではワクチン接種が始まり、接種率は急速に上がっていきましたが、アジア諸国では中国以外は接種率が低い状態が続いてきました。
いち早く感染の抑え込みに成功した中国は、発展途上国を中心にワクチンの無償提供を始めたが、その対象国は習近平国家主席が提唱する「一帯一路」構想がカバーする国と重なっています。「一帯一路」構想は、陸のシルクロードと海のシルクロードから成り、中国が世界経済をリードしていこうとする意気込みを持って進めているもので、それがカバーする範囲は世界65カ国、44億人にのぼると言われています。
コロナ危機があらわにしたアジア諸国のリスクと日本
コロナ危機により顕在化した世界のリスクは、
[1]グローバル化・人の国際移動への警鐘(危機的状況が短時間で国境を越えて伝播)
[2]高齢化社会対応への対応に対する警鐘(高齢者の致死率の高さ)
[3]経済のサービス化への警鐘(国際間の移動制限、都市封鎖による経済活動の停止)
に集約することができます。
これらは、新興アジア国の順調な経済を支えて来た条件である、
(1)生産ネットワークがアジア地域大に拡充
(2)観光産業が外貨獲得・地方振興の重要な要因
(3)労働力不足に対応するため外国人労働力依存の経済構造
の条件すべてを瓦解する結果となっています。
以上のような、コロナ禍におけるアジアの現状を確認したうえでの今後の展望として、
– デジタル経済の普及、
– とりあえずスタートして市場の反応を見ながら企画・商品化を進めるプロトタイプのイノベーション型、
– 中国や新興国が発信地になる経済モデル
が予想されます。
その時、日本はもはや「先進国」ではなく、新興国のデジタル化の可能性を拡大し、同時に新興国の脆弱性を補完する役割をする国になる可能性があるという指摘をされて、講演を終了されました。
中国経済の変貌と危機
続く講演2.は、伊藤亜聖氏(東京大学社会科学研究所准教授)による「中国経済の変貌と危機」について。
アメリカに次いで世界で2番目の経済大国となった中国について、二つの問いを設定されました。
第一は、何故中国はここまで高度成長できたのか、そしてこれからも成長は続くのか。
第二はコロナ禍をいち早く抜け出して再台頭した中国はアジアを、そして世界をどう変えるのか、
という問いです。
中国の経済成長の原因と今後
第一の問いに関しては、
– 普遍モデル論(中国の成長は特別ではなく普通のパターン)、
– 中間モデル論(ある地域・国々と共通するパターンを辿っている)、
– 独自モデル論(独特な要因と特徴で成長してきた)
の3つの見方があり、それぞれについて詳しく説明され、これから先も成長が続くのかについては肯定的立場と否定的立場の両論を紹介されました。
暫定的な回答ということで、第一次産業から第二次産業・第三次産業への産業構造の転換という点では普遍モデル的であり、輸出型工業化している点では他のアジア諸国と同様のパターンを取っている中間モデル的であるが、中国の官僚システムを見ると経済成長率が高い省のトップが昇進しているなど中国独自の人事昇進制度論も寄与している点が紹介されました。
中国はアジアと世界をどう変えるのか
第二の問いについては、中国は2028年にアメリカのGDPを上回ると予想されていますが、
– 中国は台頭するが大きく秩序を変えないという影響限定説、
– 中国が覇権を握る時代が来るとする回帰説、
– 世界秩序に激変をもたらすという断裂説、
– そして台頭しても既存の制度や秩序との相互作用をもたらすとみる組み換え説
の4つの立場を紹介されました。
アジアにおいては国際経済体制に深く組み込まれているタイ、マレーシア、シンガポールなどの国では中国の影響は限定的である一方、国際貿易体制に組み込まれていないカンボジア、ラオス、ミャンマー、ベトナム諸国には影響力が強く現れるとみる組み換え説の例を示されました。中国が2013年から始動した「一帯一路」構想、コロナ後のワクチン外交もその一環である「人類運命共同体」論の二つの事例と、それらの構想から生じる中国による「過剰介入の罠」の可能性についても指摘されました。
しかし、米中対立が激化するという新しい要素が入ってきたため、今後の見通しが立てにくい状況になってきています。このような状況の中で、国交正常化50周年となる2022年を迎える日本と中国は今後どのような関係を構想するのか。日本にとっても重要な時期を迎えているという指摘で講演を終えました。
その後、二人の講師が参加者による多くの質問に答える形で対談をされました。
【講演録ができました】
講演内容をまとめた書籍を刊行しました。
→ 『アジア経済はどこに向かうか』
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