日本の文化と心
10月12日10時~17時、福岡市の天神ビルにて上記セミナーを開催いたしました。
このたびのセミナーでは“日本の文化と心”をテーマとして、6人の方々にそれぞれのご専門の分野から自由なご意見の発表と、その後の討議を行っていただきました。
午後の討議では、会場に集った一般の方々からのご質問も加わり、講師、発表者の方々と会場が一体となる熱のこもった討論が続きました。
最後に、鶴見俊輔氏、中西進氏による総括で、このセミナーをしめくくりました。
今回のセミナーは、次の方々にご講演、ご発表をいただきました。
講演者 鶴見俊輔氏 哲学者 日本文化の現在
講演者 中西 進氏 奈良県立万葉文化館館長 しなやかな日本知
議 長 清水孝純氏 九州大学名誉教授
発表者 Tzvetana Kristeva氏 国際基督教大学教授 心のしるし-古代日本文学における「心」の意味を問うて
発表者 Christopher Szpilman氏 九州産業大学教授 「革新右翼」満川亀太郎と人種差別との戦い
発表者 劉 岸偉氏 東京工業大学教授 「日本の文化と心」を考えるヒント-新渡戸稲造から南原繁へ
発表者 稲賀繁美氏 国際日本文化研究センター教授 お稽古ごとの海外文化交流:武術の場合を中心に
このセミナーの内容は、次回刊行する会誌『FUKUOKA UNESCO』44号に特集記事として掲載いたします。
10月12日、当協会創立60年記念国際文化セミナーは「日本の文化と心」をテーマに鶴見俊輔氏、中西進氏の講演、稲賀繁美氏、クリストファー・スピルマン氏、ツベタナ・クリステワ氏、劉岸偉氏による発表と討論を行った。
このセミナーで発表された国際日本文化センター教授、稲賀繁美氏は「お稽古ごとの海外文化交流:武術の場合を中心に」という発表のなかで、次のような発言があった。
「…(前略)ひとつだけここで言いたいのは、競争原理にのっとってどちらが優れているか,どちらが勝つかという形の武道・武術であるならば、これは国際貢献として海外に広めるのにそんなに大きな意義はないと私は思います。
むしろ最初に言いました「矛を止める」というこの技術を世界に広めていく。そのために武術が使われるのであれば、そのほうがよほど大きな意味を持つだろう。世界中がたとえば市場原理で競争して勝った者がいいんだという、その価値観に武術も乗っかってしまったのでは、これは日本の心を伝えるという意味で、むしろ反対であろうと思います。
冒頭に、ユネスコ憲章の前文に「人の心の中に争いというのは起こるんだ。だから人の心の中に平和の砦(とりで)をつくらなければいけない」という言葉がありました。私は半分は賛成ですが、ちょっと反対のところもあります。「砦をつくる」という、そういう何かを守ろうとする姿勢そのものが、おかしいんだろうと思います。
ちょっと話が飛躍しますが、むしろ武術にしてもこれはお手合わせなんですね。人と人と接触して、そこで相手がどう動くかということにどう対応していくか。その人と人との間というものをいかに慈しんでいくかというのが「武」というものだと思います。そうすると、むしろ「砦」などというものを心につくらない、そういう心の在り方というものを築いていくのが武術ではないか。これは私の価値観ですが…」(後略)― セミナー記録は来年春の会誌の出版に向け準備中 ―
稲賀氏のこの話は閃光のように私の心の靄を払った。セミナー終了後、私は稲賀氏の考えに心底共感したこと、“平和の砦”という言葉がこれまでなんとなく腑に落ちないで、もやもやと心にあったことをお伝えした。
稲賀氏から“平和の砦”という表現が原文ではどうなっているか調べたらいかがですか!という示唆をいただいた。
「戦争は人の心の中で生まれるものであるから、人の心の中に平和のとりでを築かなければならない」
ユネスコ憲章の前文にある有名な一節である。
1945年(昭和20年)11月、ユネスコ憲章が採択された当時、イギリス首相だったクレメント・アトリーが演説の中で話した言葉で、それが憲章の前文に生かされたという。
英語による原文は次のような表現になっている。
「Since wars begin in the minds of men, it is in the minds of men
that the defences of peace must be constructed;」
アトリーがどのような思いでDefencesという言葉を使ったか不明だが、“平和の砦”という比喩は理解するが、戦争を防ぐための“砦”という言葉が平和を構築しようという文脈のなかにあるのは、なにかそぐわない感じを私は受けていた。
Defenceというのは辞典をみれば、1.防御、防衛 2.(…に対する)防御物、[施設、手段] (~s)とりで、要塞、とある。
“the defences of peace”を“平和の砦”とする翻訳が間違いというわけではないが、少し違和感を覚えるのは前文が生まれた第二次世界大戦が終わった直後の時代と60数年を経過したいまの時代に生きるものの感覚の相違からくるものなのだろうか?と思う。
インドの神話に「悪魔は人の心にのみ住んでいる」という言葉を私は聞いた記憶がある。
あの未曾有の戦火を体験した国々、なかでも戦勝国の間にも自省の気持ちがこめられ、ユネスコ憲章は生まれた。
ユネスコ:国際連合教育科学文化機関は人類が再び戦争を繰り返さないため、世界各国は互いに良く知り合う必要があると活動を続けており、民間団体である私たちもまた、ささやかな国際文化交流活動に取り組んでいる。
「平和というものは政府の約束だけでは達成できない。人と人との協力があってこそ達成できる!」というのがユネスコ憲章の精神である。
(*枠内は旧サイト「福岡ユネスコ丸航海誌」に掲載していた文章です.)
講演会・セミナー活動について
event
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- 往還する日・韓文化の現在 〜日本文化開放から韓流ブームまで
- 宗教・文化からみたロシアとウクライナ
- 変わる中国、変わらない中国 明・清時代から現代を見る
- 外国人との共生がコミュニティを豊かにする
- ラテンアメリカ文学の魔力 ガルシア・マルケスとバルガス・ジョサを中心に
- 映画創作と自分革命
- 大陸と日本人 なぜ彼らは海を渡ったのか
- 生きる場所、集う場所 〜パフォーミングアーツを通したアジアとの共生
- 「台湾」を読む 台湾新文学からLGBTQ文学まで
- 多文化共生を実現するために、私たちのできること
- コロナ危機以降のアジア経済
- 蘭学の九州
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- 人口減少社会 ― その可能性を考える
- 19世紀ロシア文学とその翻訳
- アオザイ 〜その伝統的価値と現代生活への影響力
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- 文学の国フランスへのお誘い
- 英国のいま、そして日本は?
- 言葉でアジアを描く―現代文学とアジア
- 「外国文学を読む。訳す。~柴田元幸氏による講演と朗読の夕べ~」
- 福岡ユネスコ文化セミナー「メディアは、いま機能しているのか?」
- 福岡ユネスコ・アジア文化講演会「インドから見たアジアの未来」
- 福岡ユネスコ講演会 国境(ボーダー)が持つ可能性―日本と隣国の最前線を見る
- 福岡ユネスコ文化講演会 上映会&対談 『ヘヴンズ ストーリー』のその先へ
- 福岡ユネスコ国際文化セミナー「日韓メモリー・ウォーズ ―日本人は何を知らないか―」
- 福岡ユネスコ文化講演会&トークショー「東山彰良の小説世界」
- 福岡ユネスコ講演会 宗教とは何か —日本から世界を見る
- 福岡ユネスコ・アジア文化講演会 生きている歴史、繋ぐ記憶
- 福岡ユネスコ文化講演会 新興アジアをどう見るか? 4つの視点
- 福岡ユネスコ文化講演会&トークショー 葉室麟の世界にふれる
- 福岡ユネスコ文化セミナー 2014 アジア主義―その先の近代へ
- 福岡ユネスコ・アジア文化講演会(林権澤監督 講演会)
- かくれキリシタンのオラショを巡る旅
- 日本人の堕落時代 夢野久作
- 村田喜代子講演会
- 陣内秀信講演会
- 平成25年度福岡ユネスコ・アジア文化講演会
- 未来に可能性はあるか?-3.11以降の社会構想-
- いつか死ぬ、それまで生きる
- 山本作兵衛と日本の近代
- 考える人 鶴見俊輔
- 〈未来〉との連帯は可能である。しかし、どのような意味で?
- 和本リテラシー(くずし字を読む)
- 邪馬台国と作家たち
- 辛亥革命と東アジア
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- 越境するアジアの現代文化 —現状と可能性—
- 松本清張と邪馬台国―古代の九州、そして北九州―
- 現代社会はどこに向かうか ―生きるリアリティーの崩壊と再生―
- いま、アジアをどう語るか ―現代化と歴史認識のはざまで―
- 水と緑の国 日本
- 福岡ユネスコ協会60年の歩み展
- 続・日本の文化と心 -日本語を基座として-
- 21世紀中国の文化構想 —和合学がめざすもの—
- 鷗外のドイツ滞在に学ぶ
- 日本の文化と心
- 戦後の新しい世界を夢みて
- 文化講演と討議
- 1967〜2005年に行なった催し・セミナー等
- 第一回 九州国際文化会議