「福岡国際文化シンポジウム2009」を開催しました。
(於:アクロス福岡 国際会議場)
2009年12月12日、福岡市中央区天神のアクロス福岡「国際会議場」でシンポジウムを開催しました。
多くのお客様にご参会いただき、盛会裡に終了しました。
このシンポジウムの記録は会誌「FUKUOKA UNESCO」46号に掲載しています。
日本の近代化において、アジアはさまざまな意味で欲望と希望の対象であり、自らを映す鏡であり、躓きの石であり続けた。アジアを考えることは日本の近代を問い直すことでもあるという竹内好の言葉を思い起こす。
今日、アジア諸国は現代世界の巨大な転換を担う主体へと成長した。
そんな中で上記のような関係はなお有効なのだろうか。
それとも、日本からアジアを問うという行為は、もはや意味を持たないのだろうか。
つまり、現代化の波の中で〈方法としてのアジア〉は終わったのか?
このシンポジウムは、それらの問いを通して、いま、アジアを語る文脈はどのように再構築されるべきかをさぐろうとするものである。
テーマ 「いま、アジアをどう語るか ― 現代化と歴史認識のはざまで―」
講演者〈議長〉 有馬 学 氏(九州大学名誉教授)
〈基調講演〉 松本健一 氏(麗澤大学教授、歴史家、評論家)
演題:「欧米とアジアの間―日本の近代」
中島岳志 氏(北海道大学准教授)
演題:「アジア主義を問い直す ― 支配と連帯のあいだ」
〈発表〉
劉 傑 氏(早稲田大学教授)
演題:「アジア現代化の課題 ― 地域内外の和解と歴史認識」
李成市 氏(早稲田大学教授)
演題:「なぜ今“東アジア史”なのか」
2009年12月24日(木) 過去と現在を結ぶ糸 -福岡国際文化シンポジウム2009-
12月12日(土)、福岡国際文化シンポジウム2009は6時間に及ぶ発表と討議を行った。
一般参加者137人。アクロス国際会議場。
議長は九州大学名誉教授、有馬学氏。基調講演は評論家、麗澤大学教授 松本健一氏と北海道大学准教授 中島岳志氏。午後は問題提起を早稲田大学社会科学総合学術院教授、劉傑氏(中国)と早稲田大学文学学術院教授、ソウル成均館大学招聘教授 李成市氏(韓国)が行い、若い3人の日本研究者、国際交流基金招聘フェロー、ストックホルム大学のカール・グスタフソン氏(スウェーデン)、同じく国際交流基金招聘フェローでニューヨーク市立大学のラン・ツヴァイゲンバーグ氏(イスラエル)、九州大学非常勤講師 徐涛氏(中国)が加わり討議を行った。
午前の部は有馬学氏が今回の「いま、アジアをどう語るか」というテーマ設定をどのような経緯で行ったか、いま改めてアジアを考えるときに来ているのでは―とのコメントにはじまった。
基調講演はまず、松本健一氏が「欧米とアジアの狭間 ―日本の近代」と題して講演。1864年元治元年に日本で模写印刷された世界地図に見られる太平洋と大西洋を当時の人々がどのように見たかという論考からはじまり、明治の文明開化がどのような内容であったか、アジア主義、北一輝問題など日本の歩んだ道を検証し、「アジアにおける“共生”という理念の大事さ」を述べた。
続いて中島岳志氏が「アジア主義を問い直す―支配と連帯のあいだ」と題して講演。日本のナショナリズム、自由民権運動、アジア主義の“心情と思想が”政略にまきこまれていった過程を詳細に見つめ、「重要なのは心情と思想をどう繋げていくか、イデオロギーを超えた思想にどう昇華するか!」と語った。
午後の部で、中国・劉傑氏は「アジア現代化の課題―地域内外の和解と歴史認識」で、中国がいま中国的和諧をめざしていること、アジアを語るには日本という国境を一歩外に出て語ることの重要性を指摘した。
韓国・李成市氏はいま韓国では東アジア論が大きく変化をしていること、東アジアが抱えている問題が日本という一人称ではなく、二人称で語られることの重要性を述べた。
(※ シンポジウムの記録は来年夏刊行予定の当福岡ユネスコ協会会誌2010年に所載)
ところで、このシンポジウムで、はからずも昭和46年(1971年)当福岡ユネスコ協会が主催した第1回日本研究国際セミナー「アジアにおける日本」での竹内好氏らの論考が、日本研究者の方々にひとつの刺激を与えたことを中島岳志氏、松本健一氏が述べられた。
(1971年7月14日~15日、福岡市国際会議場に海外から8カ国19人、国内30人の講師を集めてのセミナー。Bセッションで「国権派のアジア観とその歩み」で西尾陽太郎氏が発表を行った。また、Cセッション「北一輝の支那革命外史―日中関係の一考察
―」と続くシンポジウムで竹内好氏、石田雄氏、橋川文三氏らが討議を行った。会議録は当福岡ユネスコ協会第7号 1972年所載)
中島岳志氏は基調講演の中で、さらに松本健一氏はシンポジウム終了後、懇親パーティーの席で、自分も影響を受けた者だと述べられた。
また、議長としてコーディネーターを務めていただいた九州大学名誉教授の有馬学氏は、このセミナーの講師で当時、九州大学教授 西尾陽太郎氏の論文に触発され、九州大学へ来たことを述べられた。
(西尾陽太郎氏の「九州における近代の思想状況―国権論の展開、中国辛亥革命と九州人士 ―」は平凡社刊『九州文化論集』(四)1972年に所載)
私は前任の事務局長 竹藤寛さんにそのことを電話でお伝えした。竹藤さんはたいへんお元気そうで、「あなたが播いた種はこんな形で稔っていますヨ!」と、お伝えすると「そうか!そうか!」と実に嬉しそうに大きな声で笑われた。
鶴見俊輔氏(2007年、2008年のセミナー「日本の文化と心」で基調講演を行った)は今回のシンポジウムに「さらなる発展を期待して」と題するメッセージを当協会へ寄稿していただいた。その中の一節。
「これからは、アジア、イスラム諸国、太平洋諸島も視野に入れてほしい。私にとって福岡ユネスコ協会はここに行ったことがよかったと思う会です。この会の独特の場が日本の中のひとつの世界として続くことを願っています。
もうひとつ、この会の活動を通して日本の現代史の中にある明治以前と明治以後の断絶を越える糸口ができるのではないかと思います。(2009年11月1日)」
当協会が連綿と続けるセミナーやシンポジウム、今回そこに、過去-現在を結ぶ糸を確認することができたことは、まことに嬉しいことであった。
(*枠内は旧サイト「福岡ユネスコ丸航海誌」に掲載していた文章です.)